ドラマ「グレートヒエンの悲劇」 by Y・C・M

原作(J・W・ゲーテ)のあらすじ

「あらゆる学問を極めつくした老博士・ファウストは、この宇宙のすべての謎を
解こうとして、『天国』から『この世』を通って『地獄の底』まで、あらゆる体
験をなめつくそうと決心する。そしてついには大魔王サタンの子分である悪魔『
メフィストフェレス』を呼び出して、かれと契約を結ぶ。その契約とは、『過ぎ
行く時にむかって、とまれ、おまえはこんなに美しいから、と叫ぶことの出来る
瞬間に巡り合うことができたら、そのまま魂は地獄に落ちてもかまわない』、と
いう悪魔との約束であった。そしてかれは魔法の力で、再び二十台の青年ハイン
リヒに生まれ変わって、信仰の厚い無垢な糸つむぎの乙女『グレートヒェン』と
出会って恋に落ちるのである。。やがてファウストの種を宿したグレートヒェン
は、『罪の下着を着せられて』懺悔の儀式をさせられる恐怖にたえかねて、身籠
もった赤ん坊を池に投げ込んで死なせてしまう。これはやがて当局の知る所とな
って、かの女は囚われの身となるが、その時ファウストはメフィストの案内で『
ワルプルギスの夜』という『地獄めぐり』』に出かけていて、グレートヒェンの
身に何があったかは全く知る由もなかったのである。。しかし、ついにかれにも
事態が明らかとなるに及んで、かれはメフィストに向かって、ありったけの怒り
をこめてこう絶叫する。

メフィスト『ああいう目に遭ったのは、何もあの女が初めてじゃありませんよ』

ファウスト『何!?初めてじゃないだと?たった一人の運命だって、オレの心を
ここまで狂わすことができるのだ・・・それなのにおまえは、何百万・何千万と
いう女性の運命を、そうやってただセセラ笑って眺めているのか?おお、地獄の
霊よ、この悪魔をまたもとのムク犬の姿に変えてくれ!死ぬまで蹴飛ばして呪っ
てやるから」。

この絶叫こそまさに、ゲーテとシューベルトがともに発した「血と涙の叫び」で
なくて何であろうか!
「糸車のグレートヒェン」とその次の「嘆きの聖母に祈るグレートヒェン」を、
このような「血と涙の絶叫」、つまり「泣血哀慟歌」として聞いた時にはじめて
、これらの歌を「一字一音の末に至るまで舌なめずりをして」(芥川竜之介)味
わい尽くすことが可能になるのである。

糸車のグレートヒェン」

 
・「嘆きの聖母に祈るグレートヒェン

          



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