2012年春の例会

ピアノ三重奏曲と

バイオリン・ソナタ

 

                 

 

バイオリン・ソナタ  イ長調 D574

 

バイオリン:吉田 篤  ピアノ:大原 亜子

 

                  ピアノ三重奏曲 第1番 変ロ長調 D898

 

     ピアノ:大原 亜子 

バイオリン:吉田 篤  チェロ:窪田 椋

 

      

 2012318日(日)pm2:00開演1:30開場)

           会場:サローネ・フォンタナ  

 
会員の皆さんに「シューベルトのどんなところが好き」とたずねてみたら、それぞれ様々な言葉が返ってくることでしょう。簡単に答えられる質問ではないのですが、私の場合無理に一言で片付けると、「カワイイから大好き」

まあ、この国の女性は千年前からこのカワイイで物事を片付けてきているので大目に見ていただきたいものです。

 今回の例会は私の大好きなヴァイオリンソナタイ長調。以前から是非とも例会で取り上げてほしいと思っていました。

会員の工藤さんがおっしゃっていたのですが、少し前まではこの曲の事を「ヴァイオリンとピアノの為の二重奏」と表記していたそうです。ヴァイオリンソナタの歴史をみてみると、元々はピアノソナタにヴァイオリンのオブリガート(伴奏)が付いているというものだったそうです。ある新聞に載った記事にはモーツァルトが作ったヴァイオリンとピアノのソナタについて、「ヴァイオリニストはピアノぐらいの完成した技術が要求される」というような事が書かれていたそうです。後の時代になるとヴァイオリンとピアノの為の曲といえば「スターはヴァイオリン」ということになり、ピアノは伴奏という扱いになってしまっています。曲の形式などにはあまり知識がありませんが、シューベルトが作曲活動をしていた時代においては、「ピアノとヴァイオリンの為の二重奏」と表現するのが本来一番的確なのだろうと思っていたところ、例会の会場に着いて受け取ったプログラムにはちゃんと「ピアノとヴァイオリンのための二重奏曲 イ長調D574」という記述がされていました。(小さい事ですがここで強調させていただきます)

 あくまで私個人の感想なのですが、この曲のピアノとヴァイオリンはまだ幼い仲の良い姉と弟のようです。ピアノがお姉ちゃん、ヴァイオリンは弟。第1楽章の冒頭のピアノのメロディーは、弟の名を呼んで遊びに誘っているちょっとおしゃまな小さな女の子のイメージです。

 この曲を大原亜子さんの演奏で聴いてみたいとずっと思っていました。この曲のピアノのメロディーと私が大原さんのキャラクターに抱いているイメージとがピッタリ重なっていたからです。それに、例会を含め何度も演奏を聴かせていただいているので、私には大原さんはこの曲の事を絶対好きになってくれるに違いないという勝手な思い込みと期待を抱いていて、例会を心待ちにしていました。 

 会場のサローネ・フォンタナは個人宅に併設されています。天井が高くドーム型になっていて、客席の隅々にまで優しく音楽が降り注いできそうなところです。そしてそこには空気をまとったような音色のピアノがあります。

 いつものように杉山代表のお話の後、まずはピアノの大原さんと、以前の例会で弦楽四重奏を演奏してくださった吉田篤さんの登場で「ヴァイオリンソナタイ長調」。

 第一楽章の冒頭、大原さんのピアノがまさに「話しかけて」きてくれたように思えました。そして吉田さんのヴァイオリンの音色には、「人々に道徳がいきわたっていた古きよき時代の記憶」のようで、懐かしさと温もりに満ちていました。

 お二人の演奏を聴かせていただき、以前からの私のこの曲への愛情が、「幸福」への憧れだったのだとあらためて感じています。この憧れは曲を作ったシューベルトも演奏をする人も聴く人も、皆が共有しているように思えるのです。 

次はピアノの大原さんとチェロの窪田椋さんが登場されました。例会の案内にもプログラムには載っていなかったので皆さん「おや」っと思われたと思います。杉山代表のお話によってそれがある会員の方に用意された「サプライズ」であることが明かされました。曲はD.555。そう、そのかたのドイチュ番号です。何の曲かというと、実は歌曲スケッチです。私も持っているのですが、ナクソスのCDにチェロによる演奏が収録されています。

この曲は未完で、大原さんと窪田さんも補完することなく演奏を止めて、いや終えてくれました。何だか物足りないようにも思えたのですが、会場にいる演奏者と聴衆全員でシューベルトに「ツッコミ」を入れているみたいで、何だか愉快な気持ちになりました。

それにしてもマニアックな曲を「自分のドイチュ番号」にされたものです。D.555の会員の方は涙を流して喜んで・・・くださるはずだったのですが・・・。実は今回の例会に急に来られなくなってしまったそうなのです。杉山代表もとても残念がっていました。 

そして、ピアノの大原さんヴァイオリンの吉田さんチェロの窪田さんによるピアノトリオ。こちらの曲もプログラムに「ヴァイオリンとチェロとピアノのための三重奏曲 第1番 変ロ長調 D898」と記載されていました。こんな風に3つの楽器が並んで書かれていると、演奏者全員の顔が思い浮かぶようでいいですね。

(この曲には一つ思い出があります。妹に結婚式の披露宴で使う曲を相談されて、私はケーキ入刀に第一楽章の冒頭を強く勧めました。それはそれは盛り上がったと、自分では思っています。妹はクラシックの曲は聴かないのですが、この曲が幸せな思い出としてお守りになってくれていればうれしいです)

大原さん、吉田さん、窪田さんの演奏は、私がまだ行ったことのないヨーロッパの石畳の街に吹く風のようで、オードリー・ヘップバーンがおしゃれな服を身にまとってさっそうと歩いている姿を思い起こしました。やはり、この曲は大都市ウィーンに生まれ育ったシューベルトだからこそ作れたのだと感じました。曲が進んでいくうちに、体の中が楽しさでいっぱいになって、ノリノリな気分になっていくのを感じました。

聴いている人たち全員がきっと幸せを感じていたことと思いますが、何といっても演奏している3人がものすごく幸せそうで、そうするとやっぱりシューベルトも幸せに違いありません。

 そんな事を思った春の午後でした。