2013年秋の例会

楽興の時 と 即興



楽興の時  D780



フーゴー・ヴォルジーシェクの
      即興曲より  第1番、第5番、第6番

ピアノのための四つの即興曲 D899より  
第1曲、第2曲

ピアノ:丹野 めぐみ

2013年11月3日(日)pm2:00開演(1:30開場)
会場:サローネ・フォンタナ



例会感想

 ピアニストにとって、最初に出会うシューベルトは今回の例会で取り上げられた曲かもしれません。シューベルトが好きになるきっかけになった、という方も多いのではないでしょうか。
 いつも身内の話で申し訳ないのですが、私の夫はシューベルト作品に対してこのようなことを言った事があります。
「シューベルトはたとえどんなに長い曲でも『大曲』な感じがしない」
 これは、私にとってシューベルトに抱く親近感を違う角度から表現したものだと思いますし、私にとってはむしろ褒め言葉なのですが・・・。一方、即興曲のCDを聴いたあとにはこんな事も言ってくれました。
「こういうジャンルの曲に関しては他の追随をゆるさない感じがするね」
 シューベルトマニアを自負したくなると、どうしても埋もれた名曲を網羅していこうという欲にかられてしまうのですが、やはり、どこのだれからも理解され、愛されている曲に関しては、じっくり楽しみたいものです。

 今回、例会で演奏してくださったのはピアニストの丹野めぐみさんです。
 丹野さんの演奏は以前、「水車小屋の娘」で聴かせていただいた事があります。その時の演奏に使用されたのは200年近く前のフォルテピアノでした。私たちが普段耳にするピアノは、おそらくあと100年経っても同じ製法でつくられている事でしょうし、同じような音を出す楽器として存在しているでしょう。大きなホールで多くの観客の平等に聴こえるよう創意工夫をされてきた今のピアノによって音楽が大衆のものになったことを考えると、歴代の楽器製作者に敬意を表すべきでしょう。
 実を言うと、フォルテピアノは単に古めかしい音のする、懐古趣味的な意味合いしか持たない楽器だと思っていました。その演奏会で聴いたフォルテピアノは、ペダルによって音色が変化していきました。その音色の変化は物語の語り部として実に雄弁で、非常に興味深く聴かせていただきました。ピアノがまだ発展途上だった頃には、このように繊細な陰影ができる楽器があり、このような楽器がシューベルトの作曲にも影響を与えた事に思いを馳せるのも面白いものでした。
 「生まれたての」作品たちを想像出来るのも、フォルテピアノなどの古い楽器の分野で日々研鑽を積む、丹野さんのような演奏家がいらっしゃるからこそで、音楽愛好家の一人として感謝すべきことだと思ったものでした。

 今回の例会、テーマに「即興曲」とあるのですが、プログラムにはシューベルトの即興曲だけでなくフーゴー・ヴォルジーシェクという作曲家の即興曲がありました。いつものように杉山代表のお話によると、この人は、「即興曲」というジャンルの曲の創始者なのだそうです。
私の個人的な感想になってしまいますが、ヨーロッパののどかな田舎を舞台にした清々しい内容の映画音楽を思わせるような、気分のよくなる感じの曲だったと思います。
 今回の例会では、「楽興の時」が全曲演奏されました。
丹野さんの演奏は、骨格標本のように、この6曲の構造を的確に表現しておられていると感じました。私がこの曲に感じる魅力の正体は、実にその完璧な造形美だったのでしょう。それはひとつひとつが完璧な球形をした水晶玉が、さらに連なって出来た数珠のようなものでしょうか。普段はそんな事を考えずに音楽を楽しんでいますが、丹野さんの演奏に触れて、ただ理由もなくシューベルトに惹かれているわけではなく、おそらくは音楽理論上からもすごい作品なのだろう、という事を感じましたし、そのようなアプローチの仕方で音楽をとらえる丹野さんのような演奏家の個性というものを非常に面白く思いました。(しかし、音楽理論を学ぶつもりはありませんが・・・)

私は自分でピアノを弾くわけではないので、シューベルトに「接見」するためにはどうしても演奏家のお力が必要です。機会があればまた、丹野さんの演奏をお聴きしたいです。
以上、何かとりとめのないことを書き連ねてしまいましたが、私の例会のレポートとさせていただきます。

    大塚記


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