人質
(Die Bürgschaft)
D.246


F・シラー詩
畑儀文邦詩


刀を忍ばせ メロスは近づいた
すぐに捕えられた
「刀は何のために、言うのだ!」
ディオニュソスは迫った。
「この街を救うためです!」
「生意気な小僧め!」
「覚悟はもうできている、
命に未練はない。ただ願いが一つ、
三日間の猶予がほしい、妹を嫁がせるまで。
私の友を人質に。
逃げたら彼を殺して。」
微笑みを浮かべながら、王はこう告げた、
「よかろう、三日与えよう。
よいか、もし三日が過ぎ、お前が戻らないと、
お前の友は死んで、お前の罪は消える。」

友に告げた。
「十字架の上で我が罪を償えと、王は言った。
妹の結婚まで、三日の猶予をくれた。
そこで君に頼みがある。
人質になってくれないか。」
黙って友はうなずいた、そして王のもとへ。
メロスは旅立った。

三日の朝が明ける前、妹を無事に嫁がせた。
友との約束守るために、急ぐ。

その時激しい雨が、濁流になって流れ落ちる、
滝のように襲う。
やっと岸にたどり着き、
渦巻きが音を立てて橋を飲み込んで、
根こそぎさらってしまった。

茫然と佇み、目を凝らしてみても、
声のかぎり叫んでも
助ける船も無い、一人ぼっちの男を。
人影も見えず、あたりは海のよう。

膝を落とし、泣きながら
両手を上げて、祈る。
「神よ、助けたまえ、時間がない、
今、日は高い、でも沈むと、
友のもとに帰らないと、私のために死ぬのです。

でも、川の怒りは増して、波は次々と襲い、
鎮まる気配はない。
ひとつの道しかない。荒れ狂う波に身を投げ、
死に物狂いに水をかき分け、すると、
神が手を差し伸べた。

岸に登り、先を急ぐ。
救いの神に感謝したとき、
真っ暗な森の中から、山賊の一味が
道をさえぎり、殺すぞと、
急ぐ旅人を脅かして叫んだ、
「何が欲しい」青ざめて言った。
「命しかないぞ。これは王に捧げる!」
山賊の武器を取り、
「許せ、正義のためだ!」
まず三人を殴り倒した。他は逃げた。

太陽はギラギラと照りつけ、
身も心も疲れ果てて、倒れた。
「神よ、愛しみ深く私を助けてくださった。
今は力尽きて、愛する友も死ぬのか!」

「おや、あれは水の音、清く流れるせせらぎの音。
耳を澄ませると、ほら、岩間に見つけた。」
溢れ出る清らかな水、
思わず水をすくって、熱い体をなぐさめる。

太陽の光が草原の木々の影を長く伸ばす。
その時、旅人が二人、
早足で通り過ぎる時、噂話しをした。
「今頃、磔だ。」
居ても立ってもいられずに、
飛ぶように走る。

夕日を浴びて、輝く街の城壁が見えた。
向うから近づいて来たのは、
家の番人、フィロストラトゥス。
「ご無事で!ご主人様、引き返してください、
ご自分の命のために!もう間に合いません。
彼はあなたの帰りを疑ったことはなかった。
その思いは強く、王の嘲りの前でも」
「たとえ、間に合わなくても、
友を救えなくても、死んでひとつになれる!
王にだけは自慢させない、『やっぱり友を裏切った』と。
愛と誠の二人を殺せばいいんだ!」

やっと、夕暮れにたどり着き、
十字架の回りに人垣ができ、
友が吊り上げられた時、
人をかき分け叫んだ、
「待て!私を殺せ!罪があるのは私だ!」
人々は驚いた。
抱き合い、目には涙、苦しみと喜びの。
人々の目にも涙。
王に伝えられた。王の心に何かが。
二人は王の前に。
じっと二人を見つめて、こう言った、
「私の負けだ、二人の気高い友情にふれ気付いた。
お願いだ、私も仲間にしてくれぬか、
素晴らしい絆の。」






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