シューベルト歌曲集
「美しい水車場の娘」
日本語で歌える邦詩


このページは、国際フランツ・シューベルト協会が作成した、
シューベルト歌曲の日本語歌詞を掲載しています。
原詩の翻訳とは違って、この邦詩はメロディーに合わせて歌えるように作られています。

ここでは實吉氏の邦詩を、
畑儀文氏が2012年のシューベルト協会の例会の際に補い、
全曲の演奏を可能にしたものを掲載しています。


全曲一覧
1.たび
2.どこへ?
3.止まってくれ!
4.小川よ ありがとう
5.仕事じまい
6.知りたい男
7.あせり
8.朝のあいさつ
9.粉屋の花
10.涙の雨
11.わたしのもの!
12.中休み
13.ラウテの緑のリボンで
14.猟師
15.嫉妬と自負
16.好きな色
17.嫌いな色
18.枯れた草花
19.若者と小川
20.小川の子守歌


第1曲
「たび」
(Das Wandern)

W・ミュラー詩
實吉晴夫(第1、2、3連)・畑儀文(第4、5連)邦詩

旅こそ 粉屋のよろこび
旅こそ 粉屋のよろこび
旅の嫌いな粉屋は
悪い粉屋に 決まってる
旅に出ようよ 旅に出るのだ

水の流れから 習った
水の流れから 習った
止まることを知らないで
いつも旅を続けてる
水の流れよ 水の流れよ

くるくる回る 水車
くるくる回る 水車
夜も昼も休まず
回る回る 水車
回り続ける 回り続ける

重たい石まで 回る
重たい石まで 回る
踊り狂いながら
回る回る さざれ石
岩よ岩よ 岩よ岩よ

旅こそは 僕のよろこび
旅こそは 僕のよろこび
親方も女将さんも
どうぞ僕の望むまま
旅に行かせて 旅に行かせて



第2曲
「どこへ?」
(Wohin?)

W・ミュラー詩
實吉晴夫邦詩

せせらぎが聞こえる 岩間の清水から
谷底に響く 明るい水音が
行方も知らず 気の向くまま
水の流れと 杖に合わせて
水の流れに合わせ 杖にまかせよう
坂道を下り 川に沿って行く
明るい瀬音が 心に響くよ
明るいせせらぎ
この胸を弾ませるよ

この僕の道 どこへ行くの
どこまで続く 
心狂わす せせらぎの音
耳を澄ませば 聞こえて来る
水の妖精たちが 輪になって踊る
水の妖精たちが 声をそろえて
歌えよ 踊れよ 歩き続けろ
水車が回る 明るい小川の中
水車が回る 明るい川の中
歌い踊り続けろよ
元気で進め 進め 進め



第3曲
「止まってくれ!」
(Halt!)

W・ミュラー詩
實吉晴夫邦詩

水車が見えたぞ あの木陰に
轟く瀬音 回る水車 回る水車

会えて うれしい
森の水車よ
懐かしい家 窓がきらめく

朝の日の光が 差し込む窓
朝日を浴びて 輝く家
愛する小川よ ここのことか
ここでいいのか ここでいいのか



第4曲
「小川よ ありがとう」
(Danksagung an den Bach)

W・ミュラー詩
實吉晴夫邦詩

旅の杖を ここにとめて
しばらく休めと 君は言うのか
それでいいのか?
可愛い娘に 会えるのなら
そう ここに寄って 一休み
可愛い娘に 会えるのなら

あの娘がほんとに寄って来て
僕のものに なるかしら
成り行きに まかせてみよう
駄目で元々だ 入ってみよう
仕事はある それで十分
ここで一休み ここにしよう



第5曲
「仕事じまい」
(Am Feierabend)

W・ミュラー詩
實吉晴夫邦詩

手が千本あったなら 一人で回すのに
森の木を揺るがせ 石を投げ飛ばす
あのひとのために どんなこともできる
美しいあの娘の 眼を惹くためなら

あゝ 力は弱く
持ち上げて 運ぶのも 刻むのも 叩くのも
誰でもできる 誰にでもできる
車座になって一休み
一日の仕事も終わる
親父が一言、
「お疲れ様だった よくやってくれた」
娘が一言、みんなに「お休み」

手が千本あったなら 一人で回すのに
森の木を揺るがせ 石を投げ飛ばす
あのひとのために どんなこともやってのける
あのひとのために どんなこともやって見せる
水車場の娘よ 振り向いてもくれない



第6曲
「知りたい男」
(Der Neugierige)

W・ミュラー詩
實吉晴夫邦詩

花には訊かない 星にも訊かない
みんな言ってくれない
知りたいことは

庭師にはなれない
星は遠すぎる 
小川に訊くしかない 
ほんとに知りたいことは

愛する小川よ なぜ黙ってる
知りたい言葉は ただ一つだけだ
たった一つだけだ

「ハイ」それが一つ、
も一つは「イーエ」
この二つの言葉が すべて
この二つの言葉が すべてだ
愛する小川よ、なぜ迷ってる
これだけが知りたい
あゝ あの娘はこの僕を
あゝ 愛しているのか



第7曲
「あせり」
(Ungeduld)

W・ミュラー詩
實吉晴夫(第2連)・畑儀文(第1、3、4連)邦詩

この幹に刻み付け あの石に彫り付けよう
私のこの気持ちが あの人に届くまで
この言葉を書き続けよう
君こそわがもの それはいついつまでも

ムクドリを飼いならし 明るい歌の声で
私のこの気持ちが あの人に届くまで
いつまでも鳴かせ続けよう
君こそわがもの たとえ天地が終わる日が
来ようとも

そよ風にささやかせ 木の葉にもざわめかせ
私のこの気持ちが あの人に届くまで
送ろう 花の香に乗せて
君こそわがもの それはいついつまでも

燃えるこの目の中に 閉じたこの唇に
読み取ることの出来る
ぼくの心の内を でもあの人は気づかない
君こそわがもの それはいついつまでも



第8曲
「朝のあいさつ」
(Morgengruß)

W・ミュラー詩
實吉晴夫(第1連)・畑儀文(第2、3、4連)邦詩

おはよう、お嬢さん
なぜ顔を隠すの 何かわけがあるの?
僕の挨拶が そんなに気にかかるの
それじゃ、さようなら
僕は離れよう さようなら

遠くから見ていよう
君の出てくる窓を
ずっと遠くから
ブロンドの頭が 窓を出てくるまで
朝の星のような
君の瞳に出会えるまで

眠そうな花よ 夜露にこうべ垂れて
なぜ朝日を避ける 夜のとばり下り  心揺さぶるもの
そこに何がある そこに何がある

さあ目覚めなさい
夢の余韻を捨てて
爽やかな朝に 空に歌う雲雀
心に浮かぶ想い
恋の苦しみと 恋の悩ましさ



第9曲
「粉屋の花」
(Des Müllers Blumen)

W・ミュラー詩
實吉晴夫(第1、3連)・畑儀文(第2、4連)邦詩

川辺に咲く花々よ
明るい目を澄ませてる
この川こそ私の友
あの娘の目を思わせる
これこそ私の花

花を植えよう
彼女の窓辺のすぐ下に
あの娘が微睡み始めたら
声をかけてほしいんだ
なんて言うか知ってるよね

花が目を閉じれば
甘い 甘い眠りに
夢の中の顔みたいに
「忘れないで」とささやく
これこそ 伝えたい
これこそ まことの恋

窓を開けるあの娘に
愛の熱い眼差しを
送っておくれ 花たちよ
その花に浮かぶ朝露
朝露は僕の涙 流す僕の涙



第10曲
「涙の雨」
(Tränenregen)

W・ミュラー詩
實吉晴夫(第1連)・畑儀文(第2、3連)邦詩

二人腰をおろす 涼しい木陰
互いに見つめ合う 川の底の顔
月も昇って来るよ 星もまたたく
互いに見つめ合う 空と水の中で

月も星も 僕の目に入らない
僕はただ見つめてた
あの娘の姿を
うなづき見上げるよ 青いあの瞳
岸辺の花も あの娘を見上げる

水の底に沈む 月と星が
僕を川の底に 引き込もうとした
月と星の上を 流れる小川が
僕に呼びかけてきた
「友よ、付いて来い!」

涙が水に落ち 波紋を広げた
「雨が降ってきたわ
家へ帰らなきゃ」



第11曲
「わたしのもの!」
(Mein!)

W・ミュラー詩
實吉晴夫邦詩

せせらぎよ 鳴り止め
水車も回るな
囀る鳥たちも 鳴き止め
やめてくれメロディーを

森の木を揺るがせて
今日こそは鳴り渡れ
森の木を揺るがせて
今日こそは鳴り渡れ
水車場の娘は 私のもの

花よ、それでおしまいか
陽よ、燃え尽きてしまうか
それなら一人、たった一つの言葉を、
人知れず抱えたまま 世に出よう
せせらぎよ 鳴り止め
水車も回るな
囀る鳥たちも 鳴き止め
やめてくれメロディーを

森の木を揺るがせて
今日こそは鳴り渡れ
水車場の娘は 私のもの
私のもの



第12曲
「中休み」
(Pause)

W・ミュラー詩
實吉晴夫邦詩

私のリュートは壁に
緑のリボンを付けたまま
歌を忘れて佇む
言葉も歌も 浮かばず

この胸の苦しみだけを
歌の翼に乗せて歌えたなら
気が紛れる 
甘い歌は苦しみを忘れさせるから
幸せに耐えられず
音の力では表せぬ幸せ
リュートは壁に掛かっている
そよ風が 糸をくすぐる
ミツバチが 羽音をたてる
かすかにふるえる心

なぜ、いつまでも壁の花
秘かな音を待ちかねて
苦しい恋の名残か
新しい歌の始まりか



第13曲
「ラウテの緑のリボンで」
(Mit dem grünen Lautenbande)

W・ミュラー詩
實吉晴夫邦詩

「きれいな緑のリボンが
色褪せてゆく
私は緑色が好きだから 惜しい」
今朝、君が言うから
すぐにはずした
好きな緑を君に リボンを君に

白い粉まみれの僕も
君のために 緑が好きになるさ
緑が好きになる
恋が実るときは すべては緑
二人、緑を祝おう 二人の緑を

可愛い巻き毛に 
緑のリボンをつけろ
君は緑が好きだ
だからとても似合う
希望の緑が 恋を実らせりゃ
僕も緑が好きだ 
恋が実るなら



第14曲
「猟師」
(Der Jäger)

W・ミュラー詩
畑儀文邦詩

何を捜しているのか
でしゃばりな狩人よ
ここには獲物は無い
ただ可愛い小鹿だけ
もし小鹿に会うなら
猟銃は置いて来い
吠えまわる犬と うるさい角笛も
小汚い不精髭 小鹿は嫌がる
いや森の中に居ろ!
水車場には似合わない
木登りする魚か
水の中の子リスか
お前は水車に 口出しをするな
可愛い子に会うなら
あの娘の悩みを知れ
毎晩森の中から
あの娘の畑に来て
めちゃくちゃに踏み荒らす
猪をやっつけろ



第15曲
「嫉妬と自負」
(Eifersucht und Stolz)

W・ミュラー詩
畑儀文邦詩

小川よ、 お前はどこへ行く
狩人の後を追うのか、引き返せ
そして水車場で 娘に小言を一言
引き返せ すぐ

夕べ私の可愛い娘が
首を伸ばし眺めていた
楽しげに歩く狩人を
気に留めないのが普通さ

急いで小川よ、あの娘に伝えて
でも言わないでくれ 私の気持ちを
いいか、彼は笛を作って 
子供たちと遊んでいる、と
いいかい、彼は笛を作って
いいかい、子供たちと遊んでいる、と
解るか、ねえ



第16曲
「好きな色」
(Die liebe Farbe)

W・ミュラー詩
畑儀文邦詩

緑の服と 緑の涙
あの娘は好き 緑が好き
緑の林と 緑の野原を
あの娘は好き 緑が好き

さあ出かけよう 楽しい狩りに
あの娘は好き 狩りが好き
私の獲物は 悩みと苦しみ
あの娘は好き 狩りが好き

私の墓を 緑の草で
あの娘は好き 緑が好き
飾りはいらない 草の緑だけ
あの娘は好き 緑が好き



第17曲
「嫌いな色」
(Die böse Farbe)

W・ミュラー詩
畑儀文邦詩

ここから飛び出し 広い世界へ
緑さえ無けりゃ どこへでも行く

緑の葉っぱを皆 むしり取りたい
緑の草原を皆 青白く 青白く

嫌いな緑よ なぜ見つめる
意地悪な顔で 真っ白な粉屋を
嵐に吹き飛ばされて あの娘の家に
小さな声で たった一言 
ただ さようなら

角笛が響く 森の中から
娘の窓にも 響いてるだろう

緑のリボンをはずしてくれ
そして僕に一言 さようなら
手を差し伸べて 一言 さようなら
やさしい君の手を差し伸べて



第18曲
「枯れた草花」
(Trockne Blumen)

W・ミュラー詩
實吉晴夫邦詩

あの人がくれた花
墓に一緒に埋めてくれ
悲しそうに 見つめてる
何もかも知っているように
花は残らず青ざめて
涙のように濡れている

涙は春を呼ばず
死んだ恋は帰らない
春が来れば 冬は過ぎて
春は木の芽を吹いて
墓に埋もれた草花も
も一度咲く日が来るだろう

あの人が丘に来て
このまことを知ったら
花よ花よ 咲け咲け
五月の空いっぱいに
花よ花よ 咲け咲け
五月の空いっぱいに



第19曲
「若者と小川」
(Der Müller und der Bach)

W・ミュラー詩
實吉晴夫邦詩

(若者)
まことの恋が 破れるとき
百合の花も枯れて 地に落ちる
月は雲間に 隠れてゆく
私の涙を 見せないように
天使もその眼を 閉じたまま
すすり泣きながら 眠りへ誘う

(小川)
苦しい恋が 過ぎ去れば
夜空に 光る 新しい星
バラの花も 薄桃色に咲く
二度と 枯れない 茨の中の花
天使も翼を 折りたたんで
毎朝 ここに 降りてくる

(若者)
小川よ 小川よ 心の友
君には分かるね 恋の苦しさ
水に沈めば 憩いがある
小川よ 小川よ 歌い続けてよ
心の小川よ 歌い続けてよ



第20曲
「小川の子守歌」
(Des Baches Wiegenlied)

W・ミュラー詩
實吉晴夫邦詩

眠りなさい 目を閉じて
眠りなさい 目を閉じて
疲れ果てた子よ さあ眠りなさい
まごころはここにあるから
まごころはここにあるから
波のせせらぎを聞きながら
流れにまかせて眠りなさい

眠りなさい このベッドで
眠りなさい このベッドで
青く輝く小部屋の中で
おいで おいで ユラユラと
おいで おいで ユラユラと
波を立ててこの子を
波の音で眠らせて

狩りの笛が 聞こえたら
狩りの笛が 聞こえたら
波を立てて 邪魔してやろう
こっちを向くな 青い草花
こっちを向くな 青い草花
この子の夢を覚ますから
この子の夢を覚ますから

離れなさい この道を
あっちへお行き イジワルな娘(こ)よ
影を見せて泣かせるな!
こっちへ投げろ そのハンカチを
こっちへ投げろ そのハンカチを
この子の目をふさいでやる
この子の目をふさいでやる

眠りなさい 明日まで
眠りなさい 明日まで
悲しみも喜びも
月が上り 霧が晴れてく
月が上り 霧が晴れてく
その上の天は高い空
その上の天は遠い空






「シューベルト音楽を聴いて歌えるページ」へ戻る

トップページへ戻る