2012新春例会

ドラマチック・リートと

オペラ「双子の兄弟」抄

 

                 

曲 目

ガニュメート」「ミニョンの歌」「ズライカU」

「タウリスのオレステス」「赦されたオレステス」「すすんで沈む」「消滅」

「詩篇23」「羊飼いの乙女」「光と愛」ほか

オペラ「双子の兄弟」より

合唱とテノール「星の光は燃え尽きて」二重唱「君の胸に寄り添う花」

ソプラノ・アリア「まだ、子供だと云われるけど」

バリトン・アリア「嵐が来ようが」「母なる故郷よ」

 

ソプラノ: 牛津佐和子    テノール: 畑 儀文

ピアノ: 渡辺治子

女声合唱:コーロ・レジーナ 男声合唱: B H Chor

指揮: 田村典子      ピアノ:木内泰子 高橋美佐子

2012121() pm2:00開演1:30開場)

会場:サローネ・フォンタナ 


例会の会場に向かう総武線の車窓からは雨雲に隠れているスカイツリーが見えました。ここは間違いなく2012年1月の日本ですが、なんとシューベルトが存命中に上演されたというオペラ「双子の兄弟」が演奏されるのです。例会の案内には演奏会形式で、となっています。一体どんなことが起こるのか・・・オペラといえばCDに録音されているものも少なく、私にとっても開拓したい分野であります。ワクワクしながら会場のサローネ・フォンタナに向かいました。 

まずオープニングにピアノの渡辺治子さんによる「ロザムンデ 間奏曲第3番」です。この曲は後の弦楽四重奏やピアノの即興曲でおなじみですが、まずはこの間奏曲が原点ですね。CDでは管弦楽で聴いていますが、ピアノ編曲版でシューベルトのメロディーを楽しむというのもなかなか贅沢な方法だと思いました。渡辺さんの演奏はしっとりとしながらも軽快で、とても素敵でした。 

次に登場したのが例会に初出演のソプラノの牛津佐和子さんです。色白で長い黒髪の牛津さんが淡いクリーム色のドレスを着ていると、まるで野に咲く可憐なお花のようです。「ガニュメートD544」、「ミニョンの歌:ただあこがれを知る人だけがD877」、「ズライカU『西風』」D717」というゲーテの詩による3曲を、もちろん実吉晴夫さんの邦詩で歌ってくださいました。この3曲は牛津さんの雰囲気にピッタリ!特に「ミニョンの歌」では淡い恋を胸に抱く薄幸な少女の心情がすごく伝わってきて、歌の世界に引き込まれました。プロの歌手として歌い慣れているであろうシューベルトの歌曲であっても、邦詩で歌うとなれば技術的にとても難しいであろうことは十分理解しています。才能ある若い歌手の方にこの「ジャンル」に取り組んでいただけた事を、聴衆として心から感謝したいです。 

続いては男声合唱のBHコールの皆さんです。一昨年の夏の例会と同様、会場の前列に座っていただいていました。舞台に行きこちらを振り返るとおそろいのえんじ色のネクタイでかっこよく決めていらっしゃいました。今回はシューベルトがサリエリの元で修行していた時代に作曲されたイタリア語の歌詞による「牧場の羊飼い娘D.513」と、「父の聖名祝日のためのカンタータD80」。イタリア語の曲はとても優しい響きで、ドイツ語であるカンタータは深くて渋い響きと、そのコントラストがとても印象に残りました。 

テノールの畑さんはまさに「ドラマチック」な4曲、ギリシャ悲劇を題材にした「タウリスのオレステス」「赦されたオレステス」、死を暗喩した「すすんで沈むD700」「消滅D807」です。とにかくカッコイイ!特に私は畑さんの歌う「消滅」が大好きで、今回も歌の世界観にどっぷり浸ることが出来ました。 

休憩をはさんで前半は会場の2階席に座っていらっしゃった女声合唱のコーロ・レジーナの皆さんが「詩篇23 D706」を演奏してくださいました。コーロ・レジーナの皆さんはBHコールと同様指揮者の田村典子さんのもと活動を続けられている元PTAの合唱団です。この曲は一昨年の例会でBHコールの皆さんの演奏を聴かせていただいきました。レジーナの皆さんは女声ならではのかわいい歌声で、この美しい曲を楽しませていただきました。 

そしていよいよ「双子の兄弟・前半」のはじまりです。あらすじ、せりふを杉山代表が語り、あとは歌で、という趣向です。

登場人物のうち、18歳の誕生日を迎えた村長の娘リースヒェンを牛津さん、リースヒェンの婚約者のアントン、双子の兄弟のフランツとフリードリヒの3役を畑さんが演じました。

まずはBHコールとコール・レジーナの皆さんによるイントロダクション「星の光は燃え尽きて」です。リースヒェンとアントンの結婚式の日の朝、村の人たちが祝福のために花嫁の家の前で歌う曲です。この歌、とてもかわいらしい祝福の歌なのですが、長調の曲の途中なぜかちょっとだけ短調の音が入っているのです。・・・この短調の音、この後の波乱の物語を暗示しているのかもしれません。

リースヒェンが赤ちゃんの頃、村長であるリースヒェンの父親とある男が、男の財産についてある約束を取り交わします。それは、男の財産を役場に預け、リースヒェンが18歳になる日に男が戻らなかったらその財産はリースヒェンのものになり、男が戻ってきたらその時はリースヒェンとその男が結婚する、という、無茶苦茶な約束です。

次にやっと結ばれる事になった若い二人の二重唱「君の胸に寄り添う花」が歌われます。リースヒェンの「どうぞ心変わりの無いように」という歌詞のとき、アントン役の畑さんはにっこり笑ってしずかに首を横に振るのです。たったそれだけのしぐさで、かわいい妻を迎える初々しい若者の喜びが伝わってきます。これは本当にオペラなんだ、私はそう思いました。

そして、そう、財産を預けていった男が帰ってきてしまいます。それが眼帯をした人相の悪い男、フランツです。畑さんが眼鏡に黒いカバーをつけての登場です。フランツは自分が村を出てからの長年にわたる冒険の様子を、アリア「嵐がこようが」で高らかに歌い上げます。フランツは村長に、自分のために食事を用意するように言いつけるのです・・・というのを杉山代表が説明します。なんだか、無声映画の弁士のようです。

そして、次に登場するのはフランツと同じ顔をして、眼帯を反対につけた男、フリードリヒの登場です。そう、フランツとフリードリヒ双子の兄弟なのです。フリードリヒはフランツと違い穏やかな表情です。フリードリヒはアリア「母なる故郷よ」で懐かしいふるさとへの愛情を歌い上げます。

そして、なぜだか村人に食事をもてなされる、という杉山弁士の説明でオペラはお開きです。いつか後半も、という期待がふくらみました。 

それにしても今回は大勢の皆さんに出演していただき、おかげでオペラのエッセンスを楽しむことができました。本当にありがたいことだと思います。最後にコーラスの皆さんがすべて暗譜で例会に臨んでくださったことを、会員として心から感謝申し上げたいと思います。

シューベルトを楽しむ方法は、実はたくさんあるという事、それは私たちのささやかな会にとって大きな希望なのかもしれません。

 

             

 



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