2012年秋の例会
ピアノ・ソナタと
バイオリン・ソナタ
ピアノ・ソナタ 変ホ長調 D568
ピアノ:大原 亜子
モーツァルトの
バイオリン・ソナタ ホ短調 K304
ピアノとバイオリンのためのソナチネ
第1番 ニ長調 D384
バイオリン:吉田 篤 ピアノ:大原 亜子
2012年11月3日(土)pm2:00開演
会場:サローネ・フォンタナ
ピアノは大原亜子さん、バイオリンは吉田篤さんです。お二人は春の例会のピアノトリオに続いての出演となりました。
まずは大原さんによるピアノソナタです。大原さんと会場のサローネ・フォンタナのピアノはおそらくとても相性がよいのでしょう。大原さんは霞がかったやさしい光線のフィルターを通して映し出される風景のような音色を聴かせてくださいました。
今回、ピアノとバイオリンの二重奏ではモーツァルトの22歳の頃の作品であるホ短調のソナタが取り上げられました。
モーツァルトは1791年没ということで、シューベルトが生まれる6年前には亡くなっていたことになります。映画などでもあるように晩年は経済的にも不遇であったそうですが、教会音楽作品の傑作も多いことですし、おそらくシューベルトが物心ついて音楽を聴き始めたころには少し前に大活躍した作曲家として認知されていた事でしょう。私はモーツァルトの作品を知りませんので難しいことはわからないのですが、シューベルトの若い頃の交響曲や弦楽四重奏にはどこかモーツァルトの「風」が漂っているように感じます。昭和52年生まれの私の弟は部屋にジェームス・ディーンのポスターを貼っていましたが、シューベルトも少し前の時代のスターに対するような憧れをモーツァルトに対して抱いていたのでしょうか・・・
杉山代表から、このソナタはモーツァルトの母親が亡くなった直後の22歳の頃に書かれたことが解説されました。そして、プログラムにはこのモーツァルトのソナタの第一楽章とシューベルトのソナチネ第一番の第一楽章、それぞれの出だし部分のバイオリンの旋律の楽譜がならべて載せられておりました。モーツァルトはアウフタクトがありますが、確かに何となく似ております。
モーツァルトのソナタが始まると、なるほど、確かに短調と長調の違いはあるものの、聴きなれたシューベルトのソナチネ第1番の第1楽章のテイストを感じます。このようにして聴いてみると、このモーツァルトの曲をシューベルトは知っていたのかもしれません。この時代は「著作権」という概念はなかったそうで、他の作曲家に自作を真似されることはむしろ「尊敬」と受け取っていたと聞いたことがあります。なるほどと思い、興味深く演奏を聴かせていただきました。シューベルトがこの曲を知っていて、この曲が大好きであったら何だかすごくうれしいと思います。この美しい音楽を吸い込んだ魂が、私たちのシューベルトになっていったのですから。
第1楽章、第2楽章ともに短調のこの曲はやはり物悲しく、作曲者の心の痛みを感じずにはいられませんでした。お二人の演奏は、モーツァルトの特有の端正な面持ちをたたえていました。大原さんのピアノは水面にそっと降り注ぐ雨粒のように、吉田さんのバイオリンは優しく木の葉を揺らすそよ風のように、このソナタを弾いてくださったように思いました。