「魔王」

ゲーテ詩 Y・C・M邦詩

誰だろう、夜更けに?馬を飛ばす父と子

子は父の腕の中に、ひしと抱かれ暖か

「息子よ、なぜ顔を隠す?」

「お父さん、見えないの?尻尾(しっぽ)をつけた悪魔の樹」

「息子よ、ただの霧さ」

「可愛い子だ、おいでよ、ここで一緒に遊ぼうよ

きれいな花が咲いている、金色の飾りもあるよ」

「お父さん、お父さん、聞こえないの?

悪魔の囁く声!」

「大丈夫、大丈夫だよ、風で木の葉が騒ぐのさ」

「一緒に来れば楽しいよ、娘たちも待っている

踊り明かして楽しもう、歌って踊って遊ぼうよ

歌って踊って夜明けまで」

「お父さん、お父さん、見えないの?悪魔の娘たち!」

「息子よ、息子よ、見えるとも、柳の古い枝だ」

「オマエはオレの気に入った。イヤだといっても連れてゆく」

「お父さん、お父さん、捕まったよ。悪魔に捕まったよ」。

父は震え、馬を飛ばし、ひしと腕に子を抱え

家にようやく着いた

腕の中の子は死んでいた。

 



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