180年ぶりのシューベルト!
プライベート大コンサートへ ようこそ!
2008年3月26日(水)PM 7:00
ティアラ・こうとう小ホール
大コンサートは、180年前と同じ様に、大盛況のうちに始まり、出演者たちの大熱演と相俟って、観客の皆さんにさわやかな感動を残すことが出来たことは、主催者冥利に尽きる最高のコンサートだったと言わねばなりません。何を書いても、自画自賛のように思われそうなこの興奮は、その場に立ち会ったものだけの特権として心のうちに納め、ここでは当日のプログラムから「ご挨拶」と「演奏プログラム」を掲載するに留めたいと思います。
ご あ い さ つ
国際フランツ・シューベルト協会代表 杉山広司
いつもは、シューベルティアーデと称して、4、50人の小さな例会でシューベルトの音楽を楽しんでいる私たちですが、今日は思い切って、会員以外の方たちも交えて、シューベルトを楽しもうと、大演奏会を企画しました。今からちょうど180年前の3月26日、奇しくも、その年のその日もまた水曜日でありましたが、シューベルトは生涯一度きりの自作だけのコンサートを催しました。それを再現しようというのが、本日の目論見であります。
さて、プライベート・コンサートの前日、ウィーンの「劇場新聞」1828年3月25日版に、次のような告知文が掲載されました。
≪コンサート告示≫
今シーズンの、すでに開催された、そしてまたこれから開催される予定の、様々な音楽会の中でも、格段の注意を惹くものが、ひとつある。その演奏される作品の斬新さと、それがまさしく本物であることで、そして、そのプログラムの内容の多様性という魅力、更には、最も著名なご当地の演奏家たちの友情出演となれば、これはもう今までに無い、且つ驚天動地の楽しみが十分期待できるからである。そう、フランツ・シューベルト、その、この上なく知的で、うっとりするほど愛らしい、そして独創的な音楽詩の数々によって一躍音楽界の寵児となり、その作品の正真正銘の芸術的価値ゆえに、決していっときのものではない、否、それどころか不滅の名声を獲得するやもしれぬ、あのフランツ・シューベルトが、3月26日のプライベート・コンサートで(オーストリア楽友協会のホールにて)、彼の意中の最近作の数々を演奏するのだ。プログラムは、以下のようなものである。
1.新作の弦楽四重奏曲より第一楽章。達人・ベーム、ホルツ、ヴァイスそしてリンケによる演奏。
2.四つの新作歌曲。元宮廷オペラ歌手、フォーグルによる演奏。
3.「セレナーデ」(詩・グリルパルツァー)ヨゼフィーネ・フレーリッヒ(ソプラノ)
とコンセルバトワールの女生徒たち(コーラス)による演奏。
4.ピアノフォルテ、ヴァイオリン、そしてチェロのための新作の三重奏曲。K.M.フォン・ボックレート、ベーム、そしてリンケによる演奏。
5.ホルンとピアノフォルテの伴奏による歌曲「流れの上で」。ティーツェ(テノール)とレーヴィ(ホルン)による演奏。
6.「全能」(詩・ラディスラウス・フォン・ピュルカー)。フォーグルによる歌唱。
7.「戦闘の歌」(詩・クロプシュトック)。男声二重合唱。
かくて、ドイツ語圏の輝かしい音楽詩人である彼が、彼の卓越した芸術性や、滅多にない、素晴しい音楽体験にふさわしいというばかりでなく、まさしく彼の控え目で、謙虚な性格にもふさわしい観客に、どうか恵まれんことを!
チケット(3フローリン)は、ディアベリ、ハスリンガー、そしてライデスドルフ音楽出版社にてお求めできます。
当時としては、いかにも、「それらしい宣伝文」として読まれていたのかもしれませんが、今になってみると、実にまっとうな、予言的でさえある文章だと言わねばなりません。コンサートへの思い入れ、作曲家への思い入れが感じられるにつけ、記者の文章ではなく、これは友人のバウエルンフェルトの手になるものではないかと思われます。このコンサートは、バウエルンフェルト、イェンガー、ゾンライトナーといった古くからの友人たちが、シューベルトの窮乏を見かねて、遠慮がちなシューベルトを説得し、演奏家たちの友情出演を交渉し、「ウィーン楽友協会」からは会場を無料で提供してもらい、ようやく開催へとこぎつけることができたという経緯があったようです。大入り満員だったこの義援コンサートの売り上げは800フローリンで、全てシューベルトに手渡されたと言われています。譜面を出版社に売ることだけが収入の道だったシューベルトにとって、これは嬉しい臨時収入だったはずです。さっそく彼は、遠慮するバウエルンフェルトをさそって、あのパガニーニの「超絶技巧」のヴァイオリンを聴きに、5フローリンのチケットを二枚買って、出かけます。宵越しの金を持たない、いかにもシューベルトらしいエピソードです。
プログラムの中に、歌曲のピアノ伴奏者の名前が入っていませんが、これはシューベルト自身が演奏していたに違いありません。この頃、公開では演奏することをあえてしていなかったシューベルトでしたが、さすがに彼が主役だったこの日は、間違いなく舞台に上がっていたことでしょう。
さて、このようなコンサートを今宵再現するに当たって、当協会ならではの趣向がひとつあります。それは「日本語でシューベルトの歌曲を」歌うということです。協会は、今年で18年目を迎えましたが、その間、私たちの例会では、詞の意味がメロディに乗ってこそ、心に伝わってくるのではないかというコンセプトのもと、初代代表・實吉晴夫の邦詩による演奏が通例となっています。そして、これからも、少しずつ邦詩を増やしていきたいと考えています。中には聞きなれたシューベルトとは違うと感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、今宵は、歌を歌として、直接に味わってみてください。
会員数50人足らずの小さな会の資力では、70人近い出演者によるコンサートは、とても難しいと思われたのですが、プロの演奏家、更にはアマチュアの演奏家の皆さんのご支援により、今宵の会は実現する運びとなりました。まずは、出演者の皆さんに感謝の意をお伝えし、御礼を申し上げたいと思います。そしてまた、遠路はるばるご参集いただいた観客の皆さんにもお礼申し上げたいと思います。
多様なシューベルトを味わっていただくには、今宵は、絶好の機会であると私たちは確信しております。ひとつでも、新しい発見をされてお帰りいただければ、私たちにとってこれ以上の喜びはありません。どうぞ、存分にシューベルトを味わいつくしてください。
プログラム
1.弦楽四重奏曲 ト長調 作品161 D887 より「第1楽章」
フィルハーモニーカンマーアンサンブル
宮川正雪(第1ヴァイオリン) 松川裕子(第2ヴァイオリン)
曽和万理子(ヴィオラ) 黒川正三(チェロ)
2.歌曲「十字軍」 Der Kreuzug D932
「星」 Die Sterne D939
「漁師の歌」 Fischerweise D881
「アイスキュロスより断片」 Fragment aus dem Aeschylus D450
畑 儀文 (テノール) 黒川文子(ピアノ)
3.「セレナーデ」 Ständchen D921
藤崎美苗 (ソプラノ・指揮) 阪本田鶴子(ピアノ)
コール・クレンツヒェン (女声合唱)
<休憩 10分>
4.ピアノ三重奏曲 第2番 変ホ長調 作品100 D929
宮川正雪(ヴァイオリン)黒川正三(チェロ)黒川文子(ピアノ)
第1楽章 Allegro 第2楽章 Andante con moto
第3楽章 Scherzo : Allegro moderato 第4楽章 Allegro moderato
5.歌曲「流れの上で」 Auf dem Strom D943
畑 儀文(テノール)渡辺秀男(ホルン)黒川文子(ピアノ)
6.歌曲「全能」 Die Allmacht D852
畑 儀文(テノール) 黒川文子(ピアノ)
7.男声二重合唱「戦闘の歌」 Schlachtlied D912
東京リーダー・ターフェル1925(男声合唱) 岩佐義彦(指揮)
*当日の解説に興味のある方は こちらへ