資 料 (T)
シューベルトの手紙(實吉晴夫 訳・解説)より
(表書き)レオポルド・クーペルウィザー氏へ、ローマ市内のカフェ・グレコの常連で
ドイツ人の画家。(以上イタリア語・訳注)
1824年3月31日
クーペルウィザー君!もうずっと前から、君に手紙を書きたくて仕方がなかったのだが、
…………
一言でいうと、僕は、自分がこの世で最も不幸で最もみじめな人間だ、と感じているのだ。健康がもう二度と回復しそうもないし、そのことに絶望するあまり、ものごとを良くしようとするかわりに、ますます悪く悪くしていく人間のことを考えてみてくれ。いわば、最も輝かしい希望が無に帰してしまい、愛と友情の幸福が、せいぜい苦痛のタネにしかならず、(せめて心を鼓舞する)美に対する感動すら消え去ろうとしている人間のことを。君に聞きたい。それはみじめで不幸な人間だと思わないかね?
「私のやすらぎは去った。私の心は重い。私はそれを二度と、もう二度と見出すことはないだろう」、僕は今、それこそ毎日こう歌いたいくらいだ。なぜなら、毎夜床に就くたびに、僕はもう二度と目が覚めないことを願い、毎朝目が覚めるたびに、昨日の怨みばかりを告げられるからだ。
…………リードの方では、あまり新しいものは作らなかったが、その代り、器楽の作品をたくさん試作してみたよ。ヴァイオリン、ビオラ、チェロのための四重奏曲を二曲、八重奏を一曲、それに四重奏をもう一曲作ろうと思っている。こういう風にして,ともかく僕は、大きなシンフォニーへの道を切拓いていこうと思っている。 ウィーンの一番新しいニュースは、ベートーヴェンがコンサートを開いて、かれの新しいシンフォニー、新しいミサから三曲、それに新しい序曲をひとつ披露するという事実だ。…………
死と乙女 作品7−3 D531 クラウディウス 詞 西野茂雄 訳詞
(少女) あっちへ行って頂戴! おそろしい死の神よ!
あたしはまだ若いんです、行って、お願い!
どうかあたしにさわらないで頂戴。
(死) 手をお出し、美しくやさしい少女よ!
私はおまえの友だ、罰を与えに来たのではない。
落着いておいで!私は乱暴なんかしない。
私の腕の中で、やすらかにお眠り!