「Die Verschworenen -女たちの反乱ー

(旧題・陰謀者たち)

後に改めDer haeusliche Krieg(家族戦争)」

*これは古代ギリシャの代表的な喜劇作家アリストパネ-ス(B,C,455 385)の「リューシストラテー(女の平和)」(B,C.411上演→ストーリーと時代背景)を素材に、19世紀はじめのウィーンでフランツ・カステリ(1781 1862)という人が書いた一幕の喜劇をオペレッタ化したもので、舞台は中世の十字軍の時代になっています。検閲の厳しかった時代を反映して、ギリシャ人の原作に比べるとこのウイーン人の作品には、健康なエロチシズムに満ちた大胆なユーモアが欠けているばかりでなく、女性たちが協力し合って性的ストライキを断行することによって、男たちに戦争をあきらめさせて、市民の愛と平和という現代にも通ずる目的を達成する、というそもそもの主題すら曖昧にされていて、これではせっかくシューベルトのすばらしい音楽があっても、当時も今も「当たり狂言」になることができないのも無理はない、と思います。そこでY・C・Mとしては、大筋のストーリーはそのまま、音楽は音符一つ一つの末に至るまで忠実に再現する、という条件のもとに、台本の一部に思い切った改作を施すことにしました。以下はそのあらすじです。

あらすじ

イゼラは恋人のウドリーンが十字軍の遠征から伝令として、部隊よりも一足先に戻って来たので、再会の喜びにひたって抱き合いますが、それもつかの間で、また戦場へもどらなくてはならない、と聞かされて大層落胆します。ウドリーンはかの女から、「司令官のリューデンシュタイン伯爵の奥方・リュドミラ夫人から、今日これから市民集会を開くので、この町で夫や恋人が兵役についている女性全員が集まるように、そこで重要な議題について討議します、と言われたわ」、と聞かされて、「ぼくも興味があるから同席したいな」、と言うと、イゼラは「あら、それはダメよ。だって”男性の出席は禁止します”ってきびしく言われてるんだから」、と言います。「じゃ仕様がない、女装して出席することにする。だってぼくは司令官から、一足先に町へ行ってわが軍の大勝利を知らせて来い。そして町中の女たちに出迎えの準備を整えるように伝えてから、急いで部隊へ戻ってかの女たちの様子を細かく報告するように、って命令を受けてるんだから」、とウドリーンが言います。イゼラが仕方なくかれが女装するのを手伝っていると、伯爵夫人の姪で、同じく恋人が十字軍に参加しているヘレーネがやって来るので、ウドリーンはすばやく木の蔭に隠れて女装を続けます。

ヘレーネの歌う「ロマンス」。

女装したウドリーンも含めた三人が待っていると、やがて伯爵夫人・リュドミラが町中の女性たちを連れてあらわれ、一同に向かってこう宣言します。「お集まりのみなさん、よくお聞きください。これから私の話を聞いたら、それを誰にも話さない、と誓ってもらいます。とくに、これから遠征を終えて戻ってくる男性たちには、絶対に秘密にする、という誓いを立てていただきますが、よろしいですか?」。「わかりました、誓います」、と集まった女性たちが次々と叫ぶので、女装しているウドリーンも、内心ヒヤヒヤしながら女の声色で「誓います」、と大声で叫びました。

集会のコーラス」(女声合唱)

リュドミラは、全員が誓いを立てたのを確認すると、こう切り出しました。「私の夫をはじめこの町のほとんどの男たちは、”異教徒たちの手から聖地を奪還するという神聖な義務だ”、と称して遠い外国へ出かけてしまい、もう何年も帰って来ません。おかげでこの町には20歳から40歳までの働き手の男がほとんどいなくなって、男といえば老人と子どもばかりになってしまいました。このままではこの町はどんどん寂れてゴーストタウンになってしまうでしょう。わたくしは夫が司令官という立場ですから、何年でも一人寝の寂しさに耐えるべきだとあきらめていますが、兵隊さんたちの中には、新婚の花嫁さんと婚礼の席で引き離されて、そのまま出征させられた人も大勢います。しかもかれら男たちは、一つの戦がやっと終わって帰って来ても、しばらくするとまた次の戦いに出かけて行ってしまうのです。こういう悲劇を今後二度と繰り返さないために、私はある計画を立てました。でもそれを実行するには、みなさん全員の協力と、それから絶対に秘密を守るという約束が必要です。約束する自信のない方は,今すぐこの場を立ち去ってください。これからの計画を聞いたら、全員マリア様の前で協力と秘密厳守の誓いを立ててもらいます」。かの女の話を聞いた全員が「誓います」と叫んだので、かの女はついに計画を打ち明けました・「それではお話します。この血の涙を流しておられるマリア様に向かって、こう誓ってください。”私は夫が戦地から戻って来ても、出迎えません。キスもしません。やさしい言葉もかけません。もちろんベッドも共にしません。かれが二度と戦争には行かない、と誓ってくれるまで”。さあ、誓ってください!」。

コーラス・反乱の誓い」(女声合唱)。

ブツブツ言いながらもかの女の勢いに押されて、その場にいた女性は、全員がマリア像の前で誓いを立てました。集会が終わってから、イゼラはウドリーンにこう言いました。「あなたはほんとは女性じゃないけど、マリア様に誓ったことは守ってくれるわね?」。ウドリーンが答えます。「イヤ、そうはいかないよ。ぼくには司令官に報告する義務があるんだから」。「じゃ、あなたはマリア様との約束を破るつもりなの?天罰が当たるわよ」。「約束の言葉をよく聞いてごらんよ。”夫が戦地から戻っても”、と言ったじゃないか。ぼくはまだ君の夫じゃないんだから、ぼくはもちろん君だって守る義務はないんだよ。さあ、ぼくとキスしよう」。かれはこう言ってかの女にキスして抱きしめると、「さ、これからひとっ走りして司令官にこの事件を報告して来る」、と言って立ち去ってしまいます。

ウドリーンの報告を聞いた司令官はカンカンに怒ってこう言いました。「何?女房が町中の女たちを集めてそんなことを言ったのか。けしからん煽動だ。徹底的に懲らしめてやる必要があるな。よしみんなよく聞け!女どもの計画のウラを掻いてやろうではないか。イスラム教徒との激しい戦闘を前にして、われわれが全員で誓った言葉を覚えているだろう?”神さま、もしこの強敵と戦って勝利を得ることができましたら、愛する女性とベッドをともにできなくても、キスすることも手を握ることもできなくても、私は永遠にあなたに感謝をささげるでしょう。妻や恋人や子どもたちがどんなに私を恋しがっても、私はかれらに向かって、メシ、フロ、ウルサイ、この三つのコトバのほかには何一つやさしいコトバをかけてやらない、、とお約束いたします”、とな」。「司令官、その三つのコトバ云々は誓った覚えはありませんが・・」、とウドリーンが言うと、司令官は「そうだったな。じゃ、今ここで改めて誓ってもらおう」、と言い渡しました。しかもその上腹立ち紛れに、こんなことまで付け加えたのです。「女房には女たちを煽動した罰として、ワシは今後かの女がどんなに泣いてすがっても、異教徒との戦いをやめるつもりはない、と言ってやる。もしもワシが戦場へ出かけるのを一日でも延ばしたいのなら、素っ裸に薄衣一枚羽織っただけの姿で、丸出しの尻に乗馬用の鞭で"百叩き”を受けてから、みんなの前でワシに土下座して許しを乞うか、それとも鎧・兜をつけた完全武装の姿でワシに代わって全軍の指揮をとるか、どちらかを選べ、そうしない限り二度とキスもしてやらん、手も握ってやらん、メシ、フロ、ネル以外は一切口もきいてやらん、とも言ってやろう」。

いよいよかれらが町へ凱旋してくると、女性たちはみんな家に入ったまま、夫や恋人が我が家に戻ってくるのを今か今かと待っていました。ところがかれらは司令官の後に従って、隊列を組んだまま家の前を通り過ぎてしまい、振り向きもしないで伯爵のお城へと吸い込まれて行ってしまいました。城へ着くと伯爵は軍団の全員を大広間へ集めて豪勢な酒盛りを始めますが、妻のリュドミラの顔は見ようともしません。そして指揮官たちを相手に戦争の思い出話ばかり長々と続けるのでした。アテが外れた伯爵夫人は、自分の部屋へ戻ると、主立った女性たちを呼んで尋ねましたが、真相を知る者は誰もいませんでした。途方にくれていると、そこへ宴会の手伝いにやって来たイゼラが入ってきて、「ああ、もしかしたら、私と一緒に集会に出ていたウドリーンが密告したのかも知れません」、と言いました。「だとしたら、私にも責任がありますから、かれに・・い、いいえ、あの子に問いただして見ます」。

そっとお城を抜け出した伯爵夫人が二、三人の女性たちと物陰から見ていると、ウドリーンがイゼラと密かに会うためにやってきて、二人は濃厚なラブシーンを演じはじめますが、その行為の間にウドリーンはイゼラに問い詰められて、ついに司令官のたくらみを告げてしまいます。真相を知ったリュドミラは、動揺する女性たちに向かって毅然として、「私によい考えがあります。任せてください!」、と言い渡しました。

宴会もたけなわとなり、伯爵が指揮官たちと次の出征の計画を練っている所へ、リュドミラが大勢の町の女性たちを引き連れてやって来ました。かれらは全員真っ白なガウンに身を包んでいて、重たい足取りで進んで来ます。伯爵の前へ歩み出たリュドミラは、かれに向かってこう言いました。「旦那さま、密告者があったので、わたくしの計画はすべて筒抜けになってしまったようです。お怒りはごもっともですが、これはみんな愛する夫や恋人を戦地へ送りたくないという一心から出たことで、他意はありません。もしも責任を取って謝罪しろとおっしゃるのでしたら、わたくし一人がどんな罰でもお受けいたします。どうかほかの女性たちは許してやってください」。かの女がその場にひざまずくと、伯爵がこう言いました。「おまえが煽動したんだから、おまえ一人が罰を愛ければそれでよい。ではおまえは、二度とこんな軽はずみな真似はしないと約束して、さらにお詫びのしるしとして、ワシやここにいる全員の前で、薄い衣一枚の姿になって、丸出しのお尻に乗馬鞭で”百叩き”を受けてからこう誓うのだ。いいか、”わたくしは今後旦那さまの軍団が戦地へ出発なさる時には、涙は見せずいつでも笑顔でお見送りいたします。そして無事に凱旋なさった時には、心をこめてお出迎えし、そのたくましい腕に喜んで抱かれます”、とな」。「わかりました。お仕置きは覚悟の上で、身支度を整えて参りました。皆さんも用意はいいですね?」。「はい、用意はできています」、と白い衣に身を包んだ女性全員が叫びました。

リュドミラが着ていた白いガウンを脱ぎ捨てると、その下からは銀色にキラキラ光る鎧が現れました。それを合図に町の女性たちは一斉にガウンを脱ぎ捨て、鎧をつけた上に隠し持っていた兜をかぶり、腰の剣を抜き放って大声で叫びました。「さあ、これで神さまとの約束は果たされました。私たちが平和と愛にみちた生活に戻れる条件は、すべて整いました。男性の皆さん、軍服を脱ぎ捨てて、全員私たちの愛撫とキスを受けるのです。もしも拒否なさるなら、神さまの」罰が下りますよ!」。リュドミラは抜いた剣をすばやく夫の首に突きつけると、大声でこう叫びました。

伯爵夫人のアリエッタ

「さあ、あなた、平和を願って血の涙を流しておられるマリアさまの前で、こう誓ってください。”異教徒が私たちの土地に攻めて来ないかぎり、異教徒の土地へ攻め込むための戦争は二度といたしません”、とね。さあ、誓うんです!」。ほかの女性たちもそれぞれの夫や恋人の首に剣を突きつけました。「おまえ気でも狂ったのか?そんなムリな誓いはできないよ。それにオレたちの命を奪って何になるんだ?愛し合う者同士が殺し合っても意味がないじゃないか」。伯爵がこう言うと、リュドミラはこう答えました。「命を奪うつもりはありません。でも、もし誓っていただけないのなら、男は全員武装解除して、捕虜としてこの城に監禁します。そしてわたくしが指揮を取って、かの女たちを率いて都へ進軍し、総司令官にかけあいます。終戦の命令を出して下さらなければ、大勢の騎士や市民たちの命が犠牲になります、と言ってね」。「総司令官がそんなことを承知するわけがない。おまえたちはみんな魔女として火あぶりにされて終わりだよ」。「だったらもう希望は何もありません。この城と町を捨ててどこか外国へ行って暮らしましょう」。「おまえたちのような謀反人を、受け入れてくれる国なんかどこにもありはしないよ」。「ではこのまま城を枕に、全員刺し違えて心中しますか?」。「待て、待て、早まるな・・わかった、こういう誓いならしてもいい。さいわいこれまでの勲功に免じて、この町をはじめとしてわが伯爵領には、大幅な自治が認められている。私ら軍人が軍務に服するのは仕方がないが、市民の徴兵はこれまでよりもずっと条件を厳しくすることで、兵員を半分以下にしてムダな人員を減らすようにすることは、それは私の一存でもできることだ。巧妙手柄を争うための出陣は今後は最小限にとどめる、と誓おう」。「”最小限にとどめる”ではなくて、”今後一切しない”と誓ってください”」。「わ、わかった、誓うよ」。「いいでしょう。では早速誓って下さい!」。

伯爵に続いて指揮官も兵士たちもマリア像に向かって誓いを立てると・・・・。

フィナーレのアンサンブル」(ソプラノ・バス・混声合唱)

リュドミラは剣をおさめ、兜も鎧も脱ぎ捨てて、「これでやっと二人はただの男と女に返ることができました。今までのわたくしの乱暴はすべて水に流して、これまでのようにまたわたくしを愛していただけますか?」、と微笑みながら夫にやさしく呼びかけました。「いいとも、ここにいる全員がただの男と女に返って愛し合うがよかろう。リュドミラ、おまえの武装した姿は、まるで知恵と武勇の女神・アテーナーそっくりで、まことにさっそうとしていたが、やはりおまえは武装よりも、そのあでやかな薄い衣の方が魅力的だ。わたしを愛しているなら、もう二度と武装して物騒なものを振り回したりしないでくれ。頼むから・・」。「はい、今立てた誓いを守ってくださるのなら、わたくしも二度と武装することはないでしょう。平和とは戦争と戦争の間のわずかな期間だ、といいますが、このわずかな時間を精いっぱい利用して、この町の男と女の全員が、愛の喜びに満たされた日々を過ごすことができるように、みんなで全力を尽くしましょう。いいですか、みなさん?ではわたくしの音頭で乾杯することにしましょう。(グラスを上げて)知恵の女神と愛の女神に、そして血の涙で平和を祈って下さった聖母マリアさまに乾杯!」。「乾杯!」、と全員がグラスを上げて叫びました。伯爵夫妻は心をこめた抱擁とキスを重ねてから寝室へ向かい、それぞれのカップルもみんな、自分たちの愛の巣へと消えて行きました。宴のあとの大広間にはウドリーンとイゼラの抱き合って眠る姿が見られますが、それを眺めて満足の微笑を浮かべながらうなずき合って立っていたのは、知恵の女神・アテーナーと愛の女神・ビーナス、そして聖母マリアの三人だったのです・・・。

*今回は「ロマンス」ほか数曲と筋書しかご紹介できませんが、今世紀中には正式に上演する予定です。ご期待下さい!Y・C・Mより。









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